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地下水、水田や草原のこと

私は若い頃から農業の使命は「食料の生産」「国土保全」と考え、農家を営んできました。
無農薬の米づくりに取り組んできたのですが、阿蘇では無農薬栽培が比較的容易にできます。それは「清らかな水」が簡単に手に入るからです。
今思い返せば、若い頃は「水の大切さ」をあまり気にしていなかったような気がします。ある時から、「まてまて、この水がなければ食料はできないし、 そもそも人が生きてゆけない」と考えるようになりました。

そこで「水の大切さ」への想いを載せることにしました。

まず、阿蘇にはたくさんの水源がありますが、なぜこんなに多いのか、考えてみました。 それには次の4つの条件が主に関係しています。

一つ目は地形。噴火活動で形成されたカルデラはお盆のような形をしており、水を貯め地下に浸透させるのに適しています。
二つ目は地質。噴火活動によって水を透しやすい層と透しにくい層ができました。天然のフィルターの役目もあります。
三つ目は水田。もし水田がなければ雨は川となり海に流れ出てしまう。水田は多くの雨水を地下に浸透させています。 また、大雨の時にはたくさんの雨水を溜めることができ、「天然のダム」とも呼ばれています。
最後は草原。意外と知られていないのが草原の優れた水源涵養力です。

ここで草原と森を比較してみます。
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普通の雨の時、木の下では濡れません。雨が葉や枝でさえぎられるからです。 雨水は地面に届きにくく、その分地中に浸み込む量が少なくなります。
一方、草原は雨水が地面に届きやすく、その分浸み込む量も多くなります。また、根から吸い上げる水の量は、草の方が木より圧倒的に少ないのです。

一般的には「森が地下水を育む」と言われていますが、阿蘇の場合は特別で、「水田や草原が地下水を育んでいる」と言えます。



「阿蘇の地下水を未来へ」と題して南阿蘇村と九電グループが共同で動画を制作しました。 湧水が生まれる仕組みや、地下水を将来に亘り保全していく必要性を訴えています。


下図は熊本市の「第2次熊本市地下水保全プラン」に掲載されている図で、東海大学の調査のもとに作られたものです。 調査は下に示された地域の範囲内で行われており、阿蘇地域の地下水の流れは、これまでに調査されたことはありません。
01 地下水保全プランには熊本市の地下水は「白川中流域等から雨水やかんがい用水が浸み込んで、地下水になります」とあり、 また「地下水を将来にわたって保全していくためには上流域での健全な森林づくりが重要」と記載されています。 この理論が根拠となり「かん養推進事業」として菊陽町・大津町の水田には、3ヶ月水を張れば10a当たり22,000円の補助金が支払われたり、 西原村の牧野約800haには「水源かん養林」として植樹が行われるなど、様々な事業が行われています。

そんな中、環境省では今年度から3年をかけ阿蘇地域を中心とした水循環について調査することになりました。 慶應義塾大学・九州大学・東海大学がチームリーダーとなり調査が行われます。(調査費は3年間で3億円、異例)
詳しくは 阿蘇をモデル地域とした地域循環共生圏の構築

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上は調査事業の資料に使われている図です。阿蘇カルデラ内に降った雨が地下水となり、その後に熊本地域の地下水になることが示されています。 冒頭の動画には「〇〇〇と考えられます」といった表現を使っていますが、これは「一つの考え方である」ということであり、理論的な裏付けはありません。 そのため今回の調査によって阿蘇地域を中心とした水循環が解明されれば、草原の重要性が再認識され、草原維持活動に大きな後押しになるものと考えます。


動画にもありますように草原は地下水保全能力にとても優れています。草原を維持するには野焼きが最も有効なのですが、 住民に「草原は放置しても自然の森になるので、野焼きをしなくてもいいのではないか」という意見が根強くあり、 こうした「森が水を育む」という誤った認識が野焼き再開の足かせとなっています。

人々はなぜ「森が水を育む」と思うのでしょうか

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上は阿蘇草原再生協議会で高橋佳孝先生が使われた資料です。 森林と草原の「地下水涵養力」を比較したもので、地面に浸み込む雨の量は草原の方が多いとなっています。 しかし、このことは意外と知られていません。人々の多くは「草原より森林の方が水を育む」と思っています。


なぜこうした誤った認識が生まれるの

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上は林野庁のホームページの記事です。(浸透能)とは「水を透す能力」のことであり、 図は「森林の土壌は水をよく透す」ということを示したものであって、「地下水涵養力」のことではありません。 いかにも森林の方が地下水を育む、との印象を与えています。

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上は某市のホームページの記事です。森林から大量の地下水が生まれているように描かれていますが、こんなことはあり得ません。 数値についても林野庁と異なり体積(ml)となっており、根拠として適切ではありません。


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上は林道や山間地の観光道路でよく見かける看板です。これらのサインにより「森が水を育む」という概念が定着していると思われます。

さらに、阿蘇西麓の複数の企業はCMやホープページで「水資源の大切さ」を訴えています。このことに対しては敬意を表しますが、 「水を育んでいるのは水田と森である」と発信されており、「草原」に触れていないことは非常に残念なことです。 また、テレビなどで地下水を育む活動として植樹している映像が流れますが、そうしたメディアからの情報によって 「森が地下水を育む」といった固定観念が生まれてきたと考えます。

これまで地下水保全機能について草原にスポットが当てられことは少なく、草原をはじめ阿蘇地域の地下水の流れについても調査されたことはありません。 そのため森林だけが「地下水涵養力」があるかのように報じられてきたと思います。 冒頭に述べましたように「地下水涵養力」は森林より草原のほうが優れており、このことは草原を維持する上で最も説得力のある理論と言えます。

「草原は水を育む能力に優れている」 この事実をもっと広く世の中に訴えかけ、 草原が織りなす阿蘇の景観を後世へ引き継いでいかなければならないと痛感しております。

(注)森林を否定するものではありません。木材資源としての森林は今後とも振興してまいります。



※野焼きの弊害となっているのが保安林です。「草原と保安林の比較」を作成しましたので是非ご覧ください。
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CO2削減能力

以前、県の担当者に「保安林を草原に戻せないか」を聞いてみたことがあるのですが、 保安林は森林法により守られており「1ミリたりとも譲れない」との印象でした。
阿蘇の場合は保安林より草原のほうが優れています。これからもこのことを訴え現状を打開しようと考えています。
方法は、
1、保安林樹種転換(スギ・ヒノキ伐採し、火に強い広葉樹を植樹)
2、阿蘇中央火口丘(阿蘇五岳)を草原特区とし、草原を最優先とする

実現に向け頑張ります!


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